秀吉が利休の朝顔の噂を聞いて訪ねると全ての朝顔が刈られており、秀吉は腹を立
てます。しかし、茶室に入ると、床の間に見事な朝顔一輪が飾ってあり、利休の美意
識にいたく感心したという有名な逸話も茶席の花が重んじられていた表れです。
小堀遠州が伏見屋敷にいた時、黒田長政が帰国途中に一服のお茶を所望しました。
遠州は喜んで仕度を整えて待ちますが、急に具合を悪くしてしまったから伺えないと
いって使者が詫びてきます。残念に思っていたところに、宇治の茶師上林竹庵が京都
の数寄人を伴って訪れます。遠州は丁度良いところだったと迎え入れたそうです。席入りが済んだ頃に雨が降り出して、中立ができないのではと心配していたのですが、
懐石が済む時分には止んで中立することができました。
季節は6月初め、新緑が雨に
洗われてそれは美しかったとか。
遠州の案内で後席に入って見ると、床にはあるはずの花入れが掛けられず、土壁には水が打たれているばかりです。いぶかしく思って、
遠州に尋ねると、雨に洗われた木々の緑の美しさを目にした方々にありきたりの花を
活けても、と水だけを打っておいたとの答えが返ってきました。竹庵たちは、遠州の
心に感嘆して、京都でこのエピソードを披露したそうです。すると、雨さえ降れば、
京都の茶人は壁に水を打つばかりになってしまったとか。
ほかにもさまざまな茶席の花にまつわる話があって、茶人たちの花への思いの深さ
がうかがえます。
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