「兜門から玄関までの露地
兜門は裏千家今日庵の象徴ともいえましょう。簡素な門構え、檜皮葺、竹樋のただずまいなど、侘びた風情を具現しています。 門をくぐれば打ち水の露もすがすがしく、植え込みの間を霰こぼしの石畳がゆるやかな弧を描いて奥に延びていきます。敷石を踏むかすかな響きが、客を一期一会の思いに玄関へと誘っていくのです。国から重要文化財及び名勝史蹟に指定されている由緒と歴史ある裏千家今日庵です。
腰掛待合
無色軒から露地へ降り、飛石の導くままに数歩行くと腰掛待合です。客は亭主の迎えがあるまで、ここでしばらく待つのです。大和葺に石を置いたあたり、素朴な北国の民家といった印象を受けますが、加賀の生活が長かった仙叟の趣向です。 竹縁の下方にひときわ目立つ石を貴人石といい、正客の踏石となるものです。静寂かつ清浄な景観のなかで、丸太柱に掛かった棕櫚箒(しゅろぼうき)がアクセントになっています。
露地
亭主の迎え付けがあると、いよいよ茶室へと露地を進んで行きます。腰掛周辺の飛石とはガラリと趣を異にして、中門までまっすぐな霰こぼしの石畳が延びています。その両端には樹々が小高く繁り、付属物をいっさい省略した外露地に変化をもたらすものといえば、常磐木の緑の濃淡と木洩れ陽の織りなす明暗だけです。静かに歩む人の気配さえも、ここでは周囲から清らかな空気にとけ込んで、一つの景色となっているかのようです。
中門
鉈(なた)ナグリの手法を用いた北山丸太の柱に割竹葺(わりだけぶき)の、きわめて簡素な門ですが、露地の構成上、大きな意味を持っています。 露地は中門を境界として、景色を持たせない外露地と、幽玄の趣を盛り上げた内露地とに区別されます。中門がことさら質素を旨として建てられているのは、庭においては茶室が中心となっているので、その茶室の調子をこわさないように出来る限り重厚さや線の強さを避けるためなのです。
四方仏の蹲踞(よほうぶつのつくばい)
飛石を行くと、蹲踞の前に到ります。客はここで手水を遣い、心身を清めて席入の準備をします。又隠の席の前庭に据えられたこの方形の手水鉢は、石塔の塔身を転用したもので、四面に仏体が刻まれているところから、四方仏の蹲踞と呼ばれています。苔むして丸味を帯びた仏体の輪郭も定かではありませんが、燈籠やまめまき石・蕨箒・塵穴などとともに、侘び寂びの感が身に迫る情景をつくりあげています。